ブログ

  • 優れた製品は「視点の衝突」から生まれる――シマノから学ぶ

    優れた製品は「視点の衝突」から生まれる――シマノから学ぶ

    『シマノ 世界を制した自転車パーツ ―― 堺の町工場が「世界標準」となるまで』

    という書籍を読んだ。これは2003年の書籍なのだが、学びが多かったので読書感想文として整理したい。

    特に印象的なのは、プロ視点・エンジニア視点・営業企画視点という複合的な視点を社内でぶつけ合わせながら、製品を生み出していくフローだ。

    これは多くの企業の製品創出フローにとって参考になることだろう。

    視点ごとの特徴

    本書から読み取れる、シマノが製品を生み出すうえで重視してきた視点は、以下の三つに整理できる。

    A. 自転車レーサー(プロ)の視点

    B. 2種類の社内エンジニアの視点

    C. 営業企画の視点

    それぞれの特徴を見ていこう。

    A. 自転車レーサーの視点

    自転車レーサー視点の利点としては、重量・耐久性・操作性という観点で非常にシビアに評価を行うことが挙げられる。選手やチームから高い評価を得て実戦で採用されれば、それ自体が強力なプロモーションになる。

    同時に、シビアだからこそスイッチングにも慎重なことが多い。使い慣れた道具から切り替えれば、性能向上の恩恵を得られる可能性がある一方で、新製品に内在する耐久性などのリスクも引き受けなければならない。

    シマノは、ロード分野では主にヨーロッパ、MTB分野ではその発祥地であるアメリカを重視し、現地のチーム・レーサーと密接な関係を構築し、素早くフィードバックを取り入れ続けていった。

    また、シマノは早くからアメリカ市場との情報伝達速度を重視していた。1960~70年代のエピソードとして、「アメリカの昼間に受けた要望を、夕方に堺の本社に打電する。日本は朝にそれを受けるわけで、アメリカが寝ている間に対策を考えて返事をする。アメリカ人もこれには驚いた」という例が挙げられている。シマノが発揮したフィードバックの速度を示す好例である。

    注意が必要なのは、開発の発想すべてを選手の意見に依存することはできないということである。選手は、与えられた条件内でベストを尽くすことを優先する傾向がある。例えば、「変速操作も実力のうち」と考える選手からは、「誰もが簡単かつ正確に変速できるようにする」という、当時の常識を覆す発想は生まれにくい。

    B. 2種類の社内エンジニアの視点

    シマノ内には、元レーサーや自転車好きのエンジニアが多く存在する。同時に、自転車好きではない人間も必要だという考えが持たれている。

    シマノの元技術部長・取締役であった長野正士氏は「開発には二通りの人間が必要だと言い切る。自転車好きとそうでない者。好きな人間なら、不便なことでも厭わない。だから改良するべき部分を見逃してしまうこともある」と語る。

    例えば、かつてはブレーキケーブルは昆虫の触覚のようにハンドルから飛び出していた。

    自転車乗りの開発者は「ケーブルがないと自転車に乗った気がしないんですよ」と言ったが、「そうは言うても、飛び出していたら邪魔くさいやろ。もうちょっとすっきりさせようや」と他の開発者から意見が上がる。このようなやり取りが多くあったようだ。

    C. 営業企画の視点

    1981年から、シマノはお客さんの声を聞き、営業・製造・開発という三者の調整をしていこうということで営業企画部を立ち上げた。1976年のモントリオール五輪で6位入賞を果たした長義和氏は、この営業企画部の一員となった。

    「シマノのエンジニアというのはとても優秀なんだけど、やはり市場で何が一番求められているのかという話に疎い。純粋なエンジニアばかりだから、やることや宿題が決まっていればそれを克服する力は非常に高いけれど」(長氏)という課題意識があったことが背景となる。

    開発担当と営業企画担当のコミュニケーションは、「1、2時間ぐらい、うだうだとしゃべるわけ。話し合っているうちに、自分が何をしたいのかということが頭の中で整理されてくる」(長氏)というように進んでいった。

    異なる視点を衝突させ、バランスを取る仕組みを自社でも再現する

    さて、上で説明したような方法を自社に取り入れるにはどうすればよいだろう。

    例えば、以下のような視点を取り入れたいと考えよう。

    A. プロユーザーの視点

    B. ユーザー視点を持ったエンジニア(ただし、全員が商品のファンだと偏りが生まれる)

    C. 幅広いユーザーと対話する営業企画の視点

    A、B、Cの獲得には、以下のような施策が必要となる。

    A:

    • プロチームへのスポンサリング
    • プロが活躍している現地に人を派遣する
    • レーサーを採用する

    B:

    • 商品のファンであるエンジニアと、そうではないエンジニアの両方を採用する
    • エンジニアが営業や顧客と対話する機会を増やす

    C:

    • 顧客や販売店と常に対話できる体制を持つ
    • 営業企画が社内で製造・開発と常に対話をするようにする(対話のみならず、実際に売り込まなければ本音のフィードバックは得られないことに注意する)

    自社が何かに過剰に偏っている(プロ視点・ファンの視点等)と感じたなら、バランスを取り戻すべく、シマノが営業企画という体制を構築したような施策が必要だろう。

    単一の視点だけで考えるというのは、人間にとってやや楽なものだ。矛盾する問題を忘れさせてくれる。しかしながら、現実に機能するものを生み出すには、バランスという観点が欠かせない。

    自社の製品開発プロセスがバランスを保てているか、見直してみるのはいかがだろうか。

    *本記事で引用した発言・情報は、すべて以下の書籍から得ています。

    『シマノ 世界を制した自転車パーツ――堺の町工場が「世界標準」となるまで』

    山口和幸

  • 新規事業を動かす企画営業の基本動作

    新規事業を動かす企画営業の基本動作

    新規事業というと、対象ドメイン探し・事業案の構築・収益のシミュレーション・顧客セグメンテーションなど、事前準備に焦点が当たりがちである。

    ただし、実際のところは立ち上げ段階が急所となる。

    事前にどれほど素晴らしいドキュメントがあろうが、実行段階で機動的に戦略を修正しながら自社の方針を定めなければ、極めて高い確率で失敗する。

    むしろ、事前に素晴らしいドキュメントがあると戦略の変更がためらわれてしまうので、逆効果ですらある。あれほど努力して対象セグメントを定め、アンケート調査も行い、訴求メッセージも定めた。しかし、実地に出たところ全然売れない。このような状況であっても、戦略を修正しづらくなってしまう。

    今回は「機動的な戦略修正」に必須である企画営業の所作について記述していこう。

    ここではBtoBのビジネスを想定して説明する。

    企画営業は「売れる」という事実をつくる

    事業立ち上げの際には、商品も訴求メッセージも体制も、すべてが流動的である。このような不確実な状況において、唯一頼りになるのは「売れる」という事実、つまり顧客ニーズと自社ができることがマッチしたという事実である。

    事業をとにかくこの「売れる」という状態に導くことが、企画営業の最大の使命となる。

    「売れる」という事実は事業戦略の王様である。

    文章上だけに登場する「自社の強み」も「解決する課題」も、すべては「売れる」という事実の前には吹き飛ぶ。

    事業においては、頻繁に「よく分からないけど売れる」という期間が登場する。私が取り組んできた事業も、おおよそ以下のような経過をたどる。

    • 大きなテーマを発見する
    • 散弾銃のようにランダムな企画営業を繰り返す
    • まれに「売れる」
    • 売れた商品および顧客セグメントに特化し、やりきる
    • 振り返ると「売れた」理由を説明できる

    どうやら「売れる」という現象は極めて複雑であり、予測可能なロジックに落とし込むのは大変難しいようである。

    • 相対的な自社の競争優位性
    • 自社の方針
    • 偶発的にニーズが盛り上がっている顧客との出会い

    これらが重なり、「売れる」状態となる。そのかなりの部分は偶然の産物である。

    さらにいうなら、顧客ニーズはコントロール不能だ。顧客側の社内議論が偶然盛り上がり、実際に検討しているタイミングを捉える必要がある。

    自社が接点を持たない新規顧客へアプローチして、相手のニーズが盛り上がっている確率はそれほど高くない。

    このように不確実性が高いからこそ、実際に対価を支払ってくれる初期顧客の存在は重要だ。この顧客と学習ループに入ることができれば、事業を現実に合わせて修正していける。

    成長事業は成長企業とつくる

    前回の記事でも記述したが、「明確な成長目標を持ち、リスク・リターンを考慮しながら新たな技術・手法を取り入れ、投資していく会社」(これを正常な投資サイクルと呼ぼう)はそれほど多くない。

    企業活動として当たり前に思えるが、当たり前を当たり前に実行するのは難しいものだ。

    上のような「野心的な顧客」は、多くの場合、事業を成長させている。当たり前が当たり前にできているからだ。

    そうすると、初期顧客は成長企業であったほうが望ましい。正常な投資サイクルがない企業に何を持っていっても、「実績に乏しい」「社内を説得できない」「自分はよいと思うが予算が確保できていない」などの理由で拒否されるだろう。この状況に対して、相手の質問に答える資料を繰り返し持っていったり、デモをしたりしても無駄である。

    企画営業としてはこのような罠にはまらず、野心的な成長企業でないと思ったら即座に優先度を下げる判断が欠かせない。新規事業の立ち上げ時は、特に時間が貴重な資源となる。無駄だと思ったなら、提案活動を停止するべきだ。

    成長する事業を生み出したいなら、正常な投資サイクルを持つ成長企業と共に創出するべきだ。下降サイクルに入っている企業は、理由もなく下降しているわけではない。正常なサイクルが崩れているから下降しているのであって、外部からのサービスだけでそれを反転させることは難しい。

    外部から提供されるサービスは加速の材料であって、原動力そのものにはならない。

    逆に、この層、イノベーター理論でいうところのラガードは、「他社がやっているから自社もやる」という判断をする傾向にある。それならば、サービスが十分に成熟し、実績も増えた段階で提供すればよい。

    新技術が有用であることを自社で見極められる企業は、「実績がある」という理由だけで高騰した価格にプレミアムを支払う必要がない。まだ普及していない段階で、迅速に新たな手法を取り入れられる。

    自らが成長企業でありたいなら、新たな手法を他社の判断結果、いわば「実績」だけで判断するのではなく、内容を自社で判定できる体制を持つべきだろう。

    他社の判断結果ですべてを判断するというのは、何をするにも人気ランキングを参照している状態である。

    企画営業の基本動作を高速で回す

    さて、企画営業、すなわち実質的な事業リーダーを担当することになったら、何をするべきだろう。

    基本所作は以下となる。

    • ターゲット選定
    • アポ取り
    • 提案作成(企画)
    • 提案(営業)
    • クロージング
    • PMと連携したプロジェクト推進(フロントには立ち続け、品質担保も続ける)
    • 商品開発のディレクション

    これをひたすら、淡々と繰り返すだけである。この活動は必ずしも愉快ではない。さまざまな理由で断られ続けるうえ、そのときの扱いもひどいものだ。しかし、この不愉快さが、他人が事業立ち上げをやらない理由でもある。ここで試行回数を落としてはいけない。

    淡々と繰り返すとは書いたものの、思考停止で繰り返すわけではない。

    特にターゲット選定・営業でのメッセージング・商品開発方針などは、週次どころか2〜3日に一度はアップデートするべきだ。この学習サイクルの速さこそが成否を決定する。

    「当初の想定と違った」ことは失敗の言い訳にはならない。修正の機会はいつでもあるのだ。

    「当初想定した計画と異なる内容を実行しようとすると、社内説得に3か月かかる」ということであれば、そもそも体制自体が事業立ち上げに向いていない。どのような事業であろうが、極めて失敗確率が高い状態でスタートしているということになる。

    ちなみに、事業リーダーが顧客フロントに立たない事業は、その時点でハンディキャップを持っている。

    必要な技術はその都度獲得する

    新規事業をやっていると、過去に取り組んだことがない内容が大量に登場する。

    「顧客のニーズは分かったが、うちのエンジニアが取り組んだことのない技術を扱う必要がある」という状況で、どうするだろうか。

    基本的には、勉強してできるようになればよい。自社での習得が難しければ、採用する、外部と組むといった手段もある。

    「会社の強み」「過去に取り組んできたこと」に縛られ、事業戦略の王様である「顧客ニーズ」を無視するべきではない。

    例えば、「何らかのスポーツで世界チャンピオンになってほしい」というタスクが発生したなら難しい。しかし、ライブラリも書籍も存在し、すでに他社が実用化している技術であれば、対応する方法はある。

    基本的に、ビジネスにおいて「世界チャンピオンになる」ような困難なタスクに直面することは相当まれである。顧客ニーズに忠実に、世の中にある技術を柔軟に学び、バランスよく組み合わせる能力のほうが格段に重要だ。

    必要な能力が生じたら、その都度、獲得する方法を考えればよい。「他人にできることは大体できる」という前提に立ったほうが、事業の選択肢は広がる。

    まとめ

    • 企画営業は、何に集中するかを高速に判断する必要がある
    • 企画営業は実質的な事業リーダーになる(体制図が何であれ)
    • 成長サービスを生み出したいなら成長企業と共に取り組む。衰退企業との対話にとらわれない
    • 必要な技術や能力は、その都度獲得する
  • 持続的な競争優位を実現する学習ループ

    持続的な競争優位を実現する学習ループ

    特にソフトウェアを開発している人々にとっては「どのようにMOATを構築するか」が大きな課題となっているだろう。(MOAT: 競合に対する塀の概念)

    従来、積み上げられたコードの物量がMOATと呼べた(これ自体、元々怪しいが)時代は、コードさえ積み重ねていれば迷わずに済んだものが、今では瞬間的に大量にコードを生成できる。

    では、自社の「強み」とは何か。外部から観測可能な仕様がある状態で防衛力はあるのだろうか。

    このような迷いから具体案がないにも関わらず「弊社には独自のデータがあるから勝てる」という主張が出てしまったりする。

    今回はこのような環境下において「持続的な強みは開発環境(及び学習ループ)」という意見を述べてみたい。

    決定的な差別化は開発環境の整備

    ノートPC一台でできるような開発では競合優位性は非常に不安定である。世界中誰しもが競合になり得る。この状況から脱却するには他社では手に入りづらい開発環境を持つということが最も直接的な差別化への考え方となる。

    つまり、大量のGPUを使える環境、大規模ハード・アセット(発電所、航空機、建造物、加工機等)を持つということだ。

    ソフトウェア自体はスーパーテクノロジーでなくとも、他社も同等の環境でなければ同じものを構築し得ないのだからこれは差別化というわけだ。

    さらに、ハードウェアにはソフトウェアにはない特有のクセや相性というものが大量に存在する。これらのトラブルシューティングが知見として蓄積される。

    つまり、金を使わないと手に入らない環境を入手することで他社と環境から差別化しようということだ。

    自社を強くし続ける学習ループ

    環境が手に入っただけでは駄目である。実際に機能し、顧客に有用なものを作る必要がある。

    顧客からのフィードバックを取り入れ、環境を用いて持続的に顧客への有用性を高めていくのだ。

    これを実現するには以下の3点が必要だ。

    1. フィードバックをくれる野心的な顧客
    2. 他社が手に入れづらい開発環境
    3. 高速で学習するリーダー

    この3要素を揃え、学習ループが高速で回転し続ける状況となり、顧客の満足度が向上しているなら差別化を過度に考えなくてもよい。

    顧客は自社よりもサービスの比較に熱心であり、その顧客がスイッチングを考えず満足しているというのは顧客視点での競合優位性を示してくれているからだ。

    フィードバックをくれる野心的な顧客

    概念としては単純だが、学習ループの完成は意外と難しい。

    まず「フィードバックをくれる野心的な顧客」は非常に存在確率が低い。

    通常の企業は新サプライヤーに対してストレートにフィードバックを丁寧に与え、自社の経営をよりよくしようとは思ってくれない。

    ほとんどの利用者はフィードバックはくれないし、くれたとしても担当者観点で「こうだったらもっとよいかもしれない」というフィードバックであり、この言うことを聞いたとて、「よい製品」に導かれるわけではない。

    担当者からして「よい」と、企業として「よい」は定義が異なる。

    私の経験上、理想的な相手は「野心的に成長するオーナー企業」である。このオーナーと共によい製品を磨き上げるのが最もよい。

    逆に「野心がなく、担当者インセンティブと会社のインセンティブが乖離している企業」は自社を失敗に導く悪い選択肢となる。説明のための資料作成や無償PoCに散々つきあわされ、フィードバックを取り入れても全く競争力の向上に結びつかない結果となることが多い。

    学習ループを共に歩む相手は真剣に自社の経営をよくしたいと望んでいる相手でなければならない。このような相手とは日常的に出会い、議論をしていくことを推奨したい。

    高速で学習するリーダー

    環境、顧客がいたとしてもリーダーがいなければ何も機能しない。

    そして高速で学習するリーダーは極めて希少な人材だ。

    要件としては単純で、顧客のフィードバックを取り入れ、技術的な制約を考えながら製品競争力向上をリードする、ということなのだが、これがそれなりに難しい。

    このリーダーは深い顧客インサイト、技術理解を持っている必要があるが数が多くない。

    技術理解(リーダー自身が技術者であるアドバンテージは極めて大きい)がなければ学習サイクルは非常に遅くなる。

    顧客インサイトがなければビジョンを提示できず、顧客のランダムな意見に惑わされる。

    これは頑張って社外から採用し、社内からも発掘(多くの人に機会を与えるということ)を継続的にしていく必要がある。即座に解決する問題ではないからこそ、日常的な取り組みが欠かせない。

    まとめ

    持続的な優位性を持ちたいなら以下を持つのはいかがだろうか。

    1. フィードバックをくれる野心的な顧客
    2. 他社が手に入れづらい開発環境
    3. 高速で学習するリーダー

    どれも入手しづらい。ループとして完成されている状態に至るのは難しい。

    だからこそ完成したループは簡単には打破されない。

    このループを構築することを目指してはどうだろうか。

  • 新規事業のモチベーションを作るには?- 実践的な6つのステップ –

    新規事業のモチベーションを作るには?- 実践的な6つのステップ –

    問題提起

    新たな事業を発想し、苦しい段階を乗り越え成功させるためには、長期的に一貫した目標を追求することが重要だ。

    これは当然といえば当然なのだが、問題は、その「長期一貫した意思」はどこから来るか、ということである。

    さらに、その「意図」は何であっても成功するわけではない。成功しやすい事業を追求する意図である必要がある。そうでないと、頻繁に見られる「頑張っているけど成功しない人」になる。

    モチベーションについて相談を受けていると、次の三つが整合していないことが多い。

    • 儲かる
    • 会社の方針に沿っている
    • 自分がやりたい

    取り組んでいる事自体が褒められそうなビジネスを「自分やりたいこと」だと解釈してしまい「儲かる」を無視して突き進んだ人は多い。これでどれほどの人が失敗しただろう。

    一方で、知人に「儲かりそうな戦略」を提示しても、「やりたくならない」と言って動かない人もいる。やるべきことと、やりたいことが合っていない。

    そうすると、冒頭で掲げた問いは次のように書き直すことができる。

    「成功しやすい事業」を「長期一貫して追求する強い意図」は、どのように作り出すことができるのか。

    今回は、この問いに答えることにトライしてみよう。

    まず、この問題を考えるにあたり、有用な研究を二つ紹介したい。

    人はなぜハマるのか:フロー理論

    著名な心理学者であるチクセントミハイにより研究された理論である。

    すごくサマライズすると、人間が集中した状態に入るには、「適度な難易度の挑戦」と「成長実感」が必要であるという考えだ。そして、このフローに入っている状態は、人間にとって幸福と呼べるというものである。

    多くの人が、このフローを経験したことがあるのではないだろうか。

    草刈りでも、ゲームでも、スポーツでもよい。「ハマって」しまい、何時間もやり続けてしまう状態である。

    例えば草刈りであれば、次の二点があり、フローの要素を備えていると言える。

    • 根からきれいに除去することが難しい草を刈るという挑戦
    • 刈った場所がきれいになり、草刈りの腕前が上がるという実感

    壮大な目標がなくとも、自分のアイデンティティに関係なくとも、他人からの報酬が与えられなくても数時間草刈りには没頭してしまうのである!(これは私の最近の経験でもある)

    仕事であれば、特に開発系の業務では容易にフローに入る。

    限られた計算リソースで、いかに画像認識を動かすかというチャレンジングなタスクに取り組み、性能が徐々に上がっていく。こうした仕事にはすぐにハマってしまう。

    フロー理論は、人がなぜハマるのかを説明する。

    ただし、それだけでは、なぜ長期にわたり続けられるのかまでは説明できない。

    人はなぜ続けられるのか:SDT

    Self-Determination Theory(SDT)と呼ばれる理論である。こちらも非常に興味深い。

    「人間のモチベーションは内面化されるほど、持続性やパフォーマンスが向上する」ということが、本理論の大きな主張の一つである。

    この理論では、動機を五つに分類している。

    • External Regulation(外的調整)
      • 報酬や罰のために行動する。
    • Introjected Regulation(取り入れ的調整)
      • 恥を避けたい、認められたいなど、内面的なプレッシャーで行動する。
    • Identified Regulation(同一化的調整)
      • 「これは自分にとって重要だ」と価値を認めて行動する。
    • Integrated Regulation(統合的調整)
      • 行動が自分の価値観やアイデンティティと統合されている。
    • Intrinsic Motivation(内発的動機)
      • 行動そのものが楽しい、面白い。

    下に行くほど自律性が高く、モチベーションの質が向上するという主張である。

    つまり、「報酬や罰」によってのみ駆動されたモチベーションは、持続性やパフォーマンスの面で劣りやすいということだ。

    ただし、外的インセンティブは否定されていない。着火剤として有効に使うことはできる。

    私が過去に何らかの事業創出に成功した際も、そのきっかけの多くは外的な要因であった。内的であったことは少ない。

    この理論から考えれば、始める契機自体は何でもよい。ただし、徐々に内面化された動機へ移行していくべきということだろう。

    特にIntrinsic Motivationは、フロー理論とも符号する。

    この理論を示す代表的な研究として、Soma Puzzle実験(Deci, 1971)がある。

    学生にパズルをやらせる。

    • グループA:報酬あり
    • グループB:報酬なし

    その後、自由にしてよい休憩時間を与えると、報酬ありの学生の方が、自発的にパズルを続ける時間が短くなった。

    これは、外的な報酬が内発的動機を妨げる場合があることを示す一例として捉えることができる。

    つまり、人間は報酬によって努力するだけではなく、「自分で選択し、成長を実感し、自分らしいと感じる」ときに、長期にわたり質の高い努力をするという主張が本理論の骨子である。

    フローとSDTをどうつなげるか

    フロー理論は、人がなぜハマるのかを説明する。

    SDTは、その活動をなぜ長く続けられるのかを説明する。

    つまり、まず適切な挑戦と成長実感によってハマる。

    その後、活動の価値を自分の中に取り込み、自分にとって重要なもの、自分らしいものへと変えていく。

    最初から壮大な目的を持っている必要はない。(以前youtubeの動画で解説したが鬼滅の刃の炭治郎やスターウォーズのルーク・スカイウォーカーもマトリックスのネオもそうである)

    始める契機は、金、競争心、会社の方針、顧客からの依頼でもよい。

    重要なのは、始めた後にハマり、動機を内面化していくことである。

    私の提案

    フロー理論とSDTを踏まえると、事業リーダーが高いモチベーションを持って、有望な事業に質の高い努力をし続けるための方針は次のようになる。

    1. 長期にわたり成長する需要を考察する
    2. 制約条件である自分の能力や資金を認識する
    3. 制約条件内で追求できる事業案を考案する
    4. 小さく着手し、フローに入る(重要!!)
    5. モチベーションを意識的に内面化する
    6. 他者に対して、本事業に取り組むべきストーリーを発信し続け、応援者を増やす(ここでは良くも悪くも引けなくなる)

    特に重要なのは四つ目である。

    小さく着手する際には、「適切な挑戦」と「早期の達成・成長実感」を兼ね備えるようにする。

    三カ月経過しないと何も成果が確認できない、というようなものではフローに入りにくい。

    毎日管理画面や開発進捗を見たくなるような状態が望ましい。

    そして、外部報酬だけに依存せず、その事業を自分にとって重要なもの、自分らしいものへと徐々に変えていく。

    何でもよいから始めて、まずハマる。

    その後、内的なものへ取り込んでいくプロセスを推奨したい。始めないことには強いモチベーションは構築しようがない。

  • AI時代・ソフトウェア屋向けの事業アイデア

    AI時代・ソフトウェア屋向けの事業アイデア

    AIの日進月歩は驚異的である。日々、モデル・半導体・エンジン等に関する大きなアップデートが続いている。少し前には難しいと思われていたタスクも急速な勢いでコモディタイズしていく。

    そのような環境下でソフトウェアエンジニアリングを主力としていた企業や個人はどのような方針を取ることができるかを考えてみよう。

    一応、技術は日進月歩であり、本記事で論じている内容もすぐに古臭くなってしまう可能性が高いことはご留意いただければと思う。

    さて、前置きがあまり必要なテーマでもないので結論から入っていこう。以下が私が感じている事業機会4選である。

    AIインフラ

    これは非常に面白い。アプリケーションレイヤーが急速にコモディタイズし、AIをより活用していこうという方針を推進すればするほどに支える基盤の重要性が増す。

    即ち、データベース・セキュリティ・ネットワーク・システム連携周辺である。

    特にAIエージェントのように自律的に動作できるシステムはどのように管理をすればセキュアに活用できるのか、という論争には多くの企業においてまだ決着がついていないように感じられる。

    セキュアにしすぎれば、重要な情報にアクセスできず、システム連携もできずhuman in the loopどころか、全てのタスクに人間の介在を必要とし本来の力を全く発揮できない。

    企業には多くの制約条件が存在する。特に注目したい制約条件は以下となる。

    • 既存ITアセットを可能な限り入れ替えず活用する
    • 企業毎のセキュリティガイドライン

    この制約条件内で如何に自律的に機能できるAI活用システムを使うことができるのか、というのは非常に難しく、また面白い問題である。

    ちなみにだが、いくらアプリケーション開発のハードルが下がったとはいえ「ノンエンジニアが自社向けのシステムを開発し、実運用する」というアプローチが有効な範囲は限定的に感じられる(大量の失敗例を観測している)

    Webサイトのコーディングや簡単なシステム(ほぼGAS実装やシステム連携したエクセルレベル・SaaSであれば数百円~2,000円程度)であれば確かに可能なのだが、保守コストまで考えると完全に知識のない人が実運用レベルまで持っていくというのは逆に高コストなアプローチに思える(現時点でよほどぼったくられていない限り)。

    ローカルデモ版の開発と実運用版には巨大なギャップがあることは認識したほうがよいだろう。コンピューター関係のキャリアを歩むという方針でないならば本来の専門性に注力することを検討したい所だ。

    一般に、苦労・勉強はその経験をその後活用するならば素晴らしいリターンとなるが、専門外に少し寄り道したものは活用可能性に乏しく無駄コストになるリスクがある。どの苦労をするべきか、は選びたい所だ。

    業務変革型FDE

    FDE(Forward Deployed Engineer) という概念が人気になった。

    この概念を少し推し進めて考えよう。もし簡単なアプリケーション実装はコモディタイズするのだとすれば、常駐するのは高度な技術知識を持つエンジニアのみでなければならない、という必然性は低下する。

    「いい感じにコミュニケーションができる」と「高度なエンジニアリング知識を持つ」を併せ持つものがFDEという概念だとしよう。そしてこれを同居させている人間は極めて少ない。

    そうとなれば以下のアプローチが主に考えられる

    A.「いい感じにコミュニケーションができる」人が「少々のエンジニアリング知識を身につける」アプローチ

    B.「高度なエンジニアリング知識を持つ」人が「少々いい感じにコミュニケーションできるようになる」アプローチ

    勿論、Bでなければ推進出来ないタスク(それこOpenAIやPalantirが行っているような高度技術が要求されるもの)は多く存在する。

    ただし一般企業に対しては超高コスト・調達難易度が高いBがなくても実現出来るAに注目したい。

    Aのアプローチで実現できる実装領域を探っていくというアプローチはかなり現実的ではないだろうか。

    つまりAの部隊を持ち、良好なコミュニケーションスキルを活用しながら比較的難易度の低い実装をハイスピード・ミドルコストで実現するという事業である。これは私も取り組んでいるのだが、実に素晴らしい結果が得られている。

    これを担当する人間の特性としては以下があることが重要であることにも気付かされた。

    • 良好なコミュニケーションスキル
    • 勉強熱心であること(現時点での経験は問わない)
    • 業務設計ができること

    勉強熱心であることの価値は極めて高い。ここで言う勉強熱心とは、何を学ぶ必要があるか特定し、それを楽しくハイスピードに学べるということである。特に新しい技術に常にキャッチアップする姿勢自体は必須要件である。逆に「何をやったらよいか分からない」というのでは、あまり勉強熱心と言えない。

    この人材の使命としてはシステム設計及び実装にある。そして、技術知見がなければシステム全体として良いパフォーマンスを発揮するシステム設計は出来ない(ここでのシステムは広義・人間の業務フローなども含む概念)。

    十分な知見がなければ、高コストなアプローチをとってしまう危険性が高い。

    例えば、チャットボットに「データにより自律的に学習をさせる」ことをした結果として局所的なデータに対し最適化が働く、アウトプットの予測性が悪くなる・最終パフォーマンス(正答率・トータルコスト等)はかえって悪くなる、ということを多く経験した。このような場合、敢えて自律的に学習させない方がよい、という考えも取り得る。

    また、自社データでモデルをファインチューニングするというアプローチは取り組みとしては面白いが、トータルコストを考えると必ずしも優先度が高い施策とはならないことも多い。データ成型・GPU利用・評価などコストが高いため真っ先にシステム全体の性能を上げるために取り組むという位置づけではない。

    更に、企業として投資したものを捨てる、ということもやりづらいため魔改造された高コスト・低性能エンジンを使い続けるというトラップにはまることも多い。

    モデル自体を改変するよりも如何に汎用品を組み合わせ、うまく使えるようにするか、という工夫をする考えが現在のメインストリームであるだろう。

    技術理解を前提とした業務設計ができれば上述したように技術的にチャレンジング(不確実であり、高コスト)なアプローチを取らずとも業務設計の工夫により高信頼・低コストのアプローチを提示し、実装を推進できる。

    これができないと「とあるエンジンを利用しPoCしたけど現場では使い物にならなかった。あのベンダー/エンジンは駄目だ」という結果を得るためだけに費用と時間を無駄にする取り組みを大量に繰り返す恐れがある。

    セキュアな計算資源の安定確保

    AI活用が積極的に進めば進む程にその費用の高さに気付くことになる。やはり大量の計算資源消費を前提にしているので、とにかく高いのだ。

    また、どこぞの国のどこぞの未公開企業などに完全に依存してしまっていることが多いので性能・価格の安定性は犠牲にしていることになる。完全に外部に身を委ねている状態である。

    さらには、IPや個人情報などのセンシティブな情報とあってはそもそもAI活用がご法度になることも多い。

    AIモデル企業自身によるクラウドAPI型での利用は初期導入が容易であるが、コスト・安定性・セキュリティに大きな課題を抱えている。

    これをどうにかしなければならない。即ち以下環境を確保しなければならない。

    • コストが少なくとも予測可能
    • モデルの性能・提供が安定している
    • セキュアにデータ活用ができる

    大規模な計算であればデータセンターの議論になり、比較的小規模であればワークステーションの議論になる。

    ここではエンジニアリングの知識も重要であるのだが、とにかく調達力である。

    業界にネットワークがあり、調達・流通のキャッシュ・与信がある、という状態が重要だ。

    やや不動産屋的特性を帯びてくる。

    私が10代のときは憧れのゲーミングマシン用グラボという位置づけであったGeForce, Radeonの技術がこのような状況になるとは….時代の変化とは恐ろしいものである。マザーボードにメモリをジャカジャカ差したりしていた時代である。懐かしいね。

    ハードウェアとの組み合わせ

    既存ハードウェアを活用したサービスは意外と作れてしまうものも多くある。ありがたいことに、開発者向けのツール・技術は拡充を続け、昔よりも格段に多くのことが開発しやすくなっていると感じる。

    試しにセキュリティ用カメラ(既存カメラ+解析)を自作してみた。

    開発モチベーションとしては警備会社からの見積もりが高かったことである。自分で劣化版なら作れてしまえそうである。

    一旦自作でGPUを使わずIntel CPU上で動作するカメラ映像解析システムを作ってみた。使用技術としては以下が主である。

    • Reolink RLC810A(カメラ)
    • YOLO11n-pose/YOLOv8n
    • DeepFace
    • OpenVINO
    それなりに動きます
    最初の方は精度がよくない・その後改善

    Nvidia GPUを使えばNvidia Developerサイトで公開されているような色々ができるのだろうな、と思いつつローコスト重視である。勿論、最も苦労したのは限定されたコンピューティングリソース(Intel CPU)を活用し、そこそこの性能を発揮することだ。

    例えばだが、人間はそこまで素早く動かないのでサンプリングレートを落とす(つまり走られると検出がキツイのだが….)、動的にフレームを飛ばす等の施策で動作するようにしている。

    「高精度のセキュリティカメラを作ろう」という問いを解くのか「システム全体として限定されたコスト内でセキュアなシステムを作ろう」という問いを解くのかでは全く異なる開発方針になる。

    次はこれをAMD Ryzen搭載のMini PCに移植する。6万円のMini PCだがかなり良いパフォーマンスを発揮することを期待している!

    ちなみに、この手のものは通信環境も苦労する。カメラに搭載されているアンテナはあまり性能がよろしくないので強い信号がないと動作しない!

    これを解決するには壁に穴をあけるかエアコンのダクトからLANケーブルを外に出す(これが出来れば給電も実はPoE給電という形式で解決!)をする必要性がありそうだ。この過程で無線についても色々と学べる。また、脚立を使った工事にも習熟するとやれる物事の幅が広がりそうだ。

    広義のエンジニアリング(技術を使った問題解決)に取り組むことでソフト屋は幅を広げることが出来る。ソフト屋にとって実に面白い時代だ。

    少し脇道にそれたが、イーロン・マスクが言う所のIdiot Index(価格/原材料費)が高いハードウェア関係サービスをリエンジニアリングするという事業は面白いだろう。

    多くの企業は技術負債を持っている。残念ながら自社開発「してしまった」エンジンなどを持っていたりする(チャットボット関係企業にはこれが実に多かった・そして滅びた)。

    この自社開発してしまった自前エンジンは最新の公開されているエンジンに対して本当に有利なのか?

    開発してしまったから高コスト・低性能でも企業という組織構造上使い続けているだけではないか?そのような製品で、売れている製品を見つけたなら事業機会というわけだ!

    留意点としては、必ず「売れている製品」をベンチマークして欲しい。売れていないIoT製品は山程あるが、これをリエンジニアリングしても客がつかないことに変わりはない。

    プログラミングスクールで学んだ人がさっぱり分からなさそうなことをやればやるほどに差別化できる。現在ははんだ付けで差別化出来ないか?と探っていたりするが近年のソフトウェアは実に素晴らしく残念ながらはんだ付けの登場機会を発見出来ていない。

    余談だが、音楽用にAbletonというソフトウェアを使っている。ギター→ミキサー→PC(ableton)→出力という構成を作ってギターを鳴らしてみたが実に素晴らしい音が出る。実機のアンプやエフェクターのクオリティと比較しても驚く。Midiキーボード(Launchkey)を使えばどのような楽器でも演奏出来る。

    本当にデジタルの力はスゴイ。

    ちなみに、上ではカメラ+Mini PCというローコスト投資で実現出来る事例を挙げた(10万円未満で実現出来る)。

    差別化をしたいなら、デカイ金をハードウェアに払うことだ。極端な話し、100億円の機器を購入しその機器専用のシステム開発するとしよう。これは金による参入障壁に守られていることになる。もしその機器を購入しなければ開発環境が手に入らないならば、競合は参入しようがないからだ。例えば航空機や発電所の運用システムなど一般には中身を想像することは難しいだろう。これは開発環境自体が入手困難だからだ。

    ソフトウェアを差別化するならばハードウェアや設備にデカイ金を投資する。ある種、GPUリソースも同様だ(レンタルであったとしても)。逆にPC一台・クラウドで開発出来るソフトウェアは競合優位性は不安定だ。私としてはそのような開発は可能な限り遠ざかりたい。初期投資に守られた技術を開発したいものだ。

    AIラボ(ハイボラ枠)

    最難関である。一般には基本この選択肢はほぼない、と思ってよいのではないだろうか(勉強としては大変面白いが)。

    モデル間の競争も極めて激しい。一瞬、特定分野で性能を発揮出来たとしても即座に追い抜かれ、時代遅れになる危険性にさらされる。

    数年、数十年積み上げた技術が一瞬にして瓦解させられるリスクも大変高い。機械翻訳、OCR、音声認識などの例を挙げるまでもなく多くの技術的なレジームチェンジが発生した。

    特定の技術に特化していたがそれが瓦解したならば個人、企業はどう振る舞えばよいだろう。この転換は相当チャレンジングである。

    AIの研究をしていれば良いリターンが必ず得られるというわけではない。非常にハイボラティリティな事業であり、キャリアである覚悟が必要だ。

    基本発想方法:一般的な考えを持った人がやらなさそうなことをやる

    そもそもだが、何故新規事業の機会というのは常に発生するのだろう。1つの説明方法として以下2つのギャップが大きくなるから、と考えられるのではないか。

    1. 実際に有用であるもの
    2. 10年程メジャーであった習慣的アプローチ

    「実際に有用であるもの」はなんだろう?自分が金を払っているものを考えてみるとよい。

    一般には以下のようなものが並ぶだろう

    • 住宅
    • 食事
    • 交通
    • エンタメコンテンツ(レジャー設備含む)

    その中で「SaaS・アプリ」費用を考えてみて欲しい!元々世界全体からすればIT単体で済むものは極小である。

    しかし、名著「リーンスタートアップ」等様々な書籍はあまりにソフト単体での機会が大きかったため、思考としてはソフト屋思考に偏っていることになる。

    実際に金が支払われるためにはハードウェア・不動産・化学品・機械・コンテンツなどが重要なのだが、ソフトウェアの機会があまりに大きかったため、ソフトウェアのみのサービスにやや偏った考えを持っている人が多いはずだ。

    思考習慣の練習として「SaaS・アプリ思考」からの脱却を特にソフト屋に対しては推奨したい。

    例えば「AIでローコストでSaaSを開発し、The Modelで…まずデモを見せて…」のようなものは過去時代の断末魔のようなものだ。ローコストSaaSは個人事業として否定するどころか、素晴らしいものであるが、会社の命運を託すにはあまりに心細い。何せ競合からの打撃にあまりに脆弱であり、後発の方が必ずローコストかつこちらの手法を学習しているのだ。どう高いマージンを維持しようというのか(個人であれば小さな領域に隠れることが出来るが)。

  • 仏検3級 合格に向けた勉強方法(受験対策)

    仏検3級 合格に向けた勉強方法(受験対策)

    普段は経営論について主に語る本ブログですが、今回は番外編でフランス語の勉強について解説していきます。

    勉強方法の解説コンテンツがネット上に多いわけではなかったので書いてみようと思いました。

    独学や単位対策に急ぐ大学生向けに有用なコンテンツとなれば幸いです。

    本記事の内容

    • はじめに(フランス語勉強のモチベーション・プロフィール)
    • 使用教材と活用方法
    • 時間が限定されている中で仏検3級に合格したい人向けの勉強方法
    • AIの活用
    • 得点戦略
    • 私の受験結果
    • フランス語勉強の効果

    はじめに

    私は社会人で単位がもらえるわけでもないのになんでフランス語?と感じるでしょう。

    きっかけとしては昨年フランス旅行に行くということで簡単な旅行会話用として仏検4級を受験してみたことです。どうせやるなら次は3級か、という旅行会話の延長線で今回も受験しています。

    付随的なモチベーションとして、ビジネスパートナーがケベック出身のカナダ人なのでフランス語が話せると会話が少し盛り上がる、将来的にフランスの料理学校にフランス語で通いたい、トリリンガルに憧れるなどのモチベーションは少しあります。

    いずれにせよ、特に明確なモチベーションがあるわけではありませんが、80~100時間勉強するために特段強いモチベーションは要求されないでしょう。純然たる興味で申し込んでみてよいと思います。

    簡単なプロフィールとしては普通の社会人です。平日まとまった勉強時間を確保するのは結構難しい。また、日・英のバイリンガルです。

    受験の経緯としては2025年11月に仏検4級、2026年6月に仏検3級受験となります。

    それぞれに対して投入時間はおよそ40時間づつ程度だと思います。合計約80時間ですね。

    使用教材

    主に使用した教材は以下となります。

    1. 過去問『仏検公式ガイドブック3級・4級・5級』(2025年・2026年版)
    2. 問題集『仏検3級スピード合格』(練習用)
    3. 教えて仏検先生!3級(中核教材)

    記憶のリフレッシュ用として「文法書『フラ語入門、わかりやすいにもホドがある!』」をパラパラとは見ました。

    ポイントとしてはあまり使用するテキストを分散させないことです。試験というのは基礎問を確実に解ければ相当な高偏差値を取ることが出来ます(受験生時代の教訓)。当たり前を当たり前に出来る。これで多くの競争に勝てるはずです。

    仏検3級レベルでは多くありませんが、難問・奇問は捨ててよいのです。

    基礎問をミスなく確実に解くことを基本戦略とするとよいでしょう。

    単語帳は非効率な印象を受けたので結局やりませんでした。問題を解く過程で遭遇した分からない単語を調べた程度です。ただし、言語というのは結局語彙力が極めて重要なのは間違いないので今後はやっていこうと思います。

    とにかく時間投入を決意しよう

    4級受験は10時間くらいで出来るのかな?と思いきや40時間程使いました。想定よりも大変です。(89/100点だったのでやりすぎではありましたが)

    楽ではなかったので3級をギリギリまで申し込むか否かを迷っていました。そのせいで勉強開始は5月30日頃となってしまいました。受験日の6月21日まで3週間程しかありません。

    まず、4級受験の際に購入した仏検公式ガイドブックで3級の問題を解いてみます。

    困りました。得点率は10-20%程です。全然分かりません。4級の知識をリフレッシュすることのみならず、新たに学ぶ必要があることも多そうです。しかし焦る必要はありません。まだ3週間あります。まとまった時間を取れる休日に換算するなら6日・フルデイを活用出来ます。

    仏検は日曜午後でしたので最後の土曜・日曜午前も活用すればギリギリまで投入時間を増やせます。

    ここでおすすめしたいのはまず最初にやるべきは時間の確保・投入の決意です。

    仏検に限らずあらゆるものはそうですが、基本的に効率も・成功率も投入時間と明確に比例します。効率の良い勉強方法にも、時間を投入しなければ到達しません。

    効率の良い方法を探す前にまず時間を投入する決意をしましょう。すなわち、休日はすべてフランス語に捧げましょう。

    たった3週間・週末のことです。迷わず決意しましょう。これがとにかく大事。

    ただ、全てとは言ったものの実際休日の勉強時間は約5時間/日だったと思います。

    勉強方法

    実際に私が辿った勉強方法はおよそ以下です

    1. 過去問を一度解く・解説をなんとなく見る
    2. 教えて仏検先生!を繰り返し解きながら分からない箇所をChatGPTに聞いて繰り返す(中核)
    3. 仏検3級スピード合格を問題週として活用し、問題を解くことに慣れる
    4. 2026年版過去問で2025年2回分の問題を解き弱点の発見と対策を続ける

    1は解説を見てよく分からなくてもあまり気にしないで下さい。公式ガイドブックの解説はかなり分かりづらく、これを見て勉強するのはあまり効率的ではありません。

    また、点数が悪くても気にする必要はありません。まず過去問を見るというのは現状と目標とのギャップを認識することにあります。過去問を見て、課題を把握することは最優先にしましょう。

    勉強の効率をよくするためには出題頻度の高い基礎問を中心に対策をしたい所です。これに適した教材が「教えて仏検先生」です。発売日は2010年とかなり古いのですが、問われる内容は大きく変わってはいません(語彙を問う大問の出題方法は変わってます)。

    こちらは過去10年の出題傾向を分析し、頻度順に練習問題を組んでくれている本なのでこの本の高頻度問題をマスターすれば高い確率で合格を見込めます。

    基礎問をミスなく・当たり前を当たり前に、これは受験に限らずスポーツを通じて学んだ勝利への法則です。難問・奇問は捨てて基礎問をミスなく、が試験の基本ですね(仏検3級では難問・奇問というレベルの出題はほぼありませんが、正答率が10%代のような問いはあります。これは捨ててよいでしょう)

    また語学に特に顕著ですが、「確固たる論理のもとに正解を判断出来るようにしよう・順々に文法を攻略しよう」という方法はやや非効率に感じます。これは私の特性かもしれませんが、私の場合は「なんとなく、感覚で解けるように体に言語をなじませていこう」というアプローチを基本としました。

    フランス語が体に馴染んでくると「LuiなのかLeなのか、enなのかyなのか」悩んだ際にも「普通はこう表現するような気がする」で解けるようになります。

    言語を体に馴染ませる、重要な発想ですね。私の場合は「enのXXXという用法はこれだから…」「直接目的語は…」という判断方法が苦手だったので「なんとなく解ける」を目指しました。

    なんとなく文章を書く、なんとなく日々フランス語で考えてみる、など「なんとなく勉強」は効果的であったと思います。何もデスクに向かっている時間だけが勉強時間というわけではないのです。

    体に言語を馴染ませることを日常生活でも意識していきましょう。なんとなく解けるようになります。

    語学学習へのAI活用

    ChatGPT様々です。家庭教師として素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれます。

    分からない問題の写真を撮影し、質問していけば素晴らしい指導をしてくれます。現代の画像認識は本当にすごい。

    基本的に独学が好みの私にとってはLLMは革命的な存在です。何かを学ぶ際に「人に聞く」というボトルネックを鮮やかに解決してくれました。

    (ちなみにこれは仏検3級のような基礎的な勉強だから機能するのであって、ビジネスの場では過大評価するべきではありません)

    AI活用方法としては主に以下の用途で使いました。

    • 問題の写真を撮影し解説してもらう。問答する。(最近の文字・画像認識は本当にスゴイ)
    • 思いついた文章をフランス語でなんと表現するのか解説してもらう(「例えば、これから自転車でオフィスに向かいます」など)
    • 自分が考えたフランス語の文章を添削してもらう

    ちなみにですが、英語ライティングも日本語を丸投げで翻訳してもらうのではなく、英語で書いた文章を添削してもらう、とすると日々の仕事の中でも英語ライティングを上達させられます。

    私個人の趣向ではありますが、AIにお任せ、というのが好きになれません。むしろAIが自分の学習を効率的にしてくれるおかげで自分自身の幅が広がるというのが好きですね。

    得点戦略

    比較的簡単な問題を確実に得点し、難易度が高い大問2(活用・スペリング含む)及び大問5(語順問題)は相当落としても合格するように得点戦略を組み立てました。

    満点狙いたい:

    • リスニング2,3
    • 筆記 8,9

    8割狙いたい:

    • 筆記3,4,6,7

    半分解ければよい:

    • リスニング1(ディクテ)
    • 筆記1,2,5(スペリング・活用・語順)

    特に2,5は常に低得点率でしたのでここでの失点は前提にします。

    問題を解く手順も9→8→7…と容易な問題から着手し、気持ちを低下させることを防ぎました。

    「解ける解ける」と気持ちを軌道に乗らせるのは本番のメンタルコントロール対策です。

    最初から2に手をつけると「分からない…勉強したのに…」というメンタルの下落を受けてしまいます。

    大問別攻略方針

    大問別の攻略方針を簡単にまとめます。注意点としてはあまり個別大問別対策だけに固執しないことです。1(慣用句)対策としてやっていたことがそのまま出るわけではありませんし、5(語順)では総合的な力が問われます。

    フランス語を書く・口で話す・考えるを繰り返している間に徐々に全体のレベルが上達していくので「問題対策」という学び方だけにならないようにしましょう。何よりも、試験対策として勉強すると面白くなくなります。フランス語を書く・話す・考える、時間を増やして体に馴染ませましょう。

    大問1:慣用句

    スペリングを含むため普段どれだけ文章や語句を書いているかが問われます。よく見る表現についてはノートに書いてスペリングも出来るようにしておきましょう。

    仏検先生+スピード合格の問題が出来れば50%程は得点出来るでしょう(全部カバーは出来ません)。後は運です。

    大問2:活用

    最難関です。半過去・複合過去・単純未来・ジェロンディフあたりが良く出る。ただし、どの活用をさせるべきか把握し、スペリングも含めて出来なければ正解出来ません。

    活用を理解していないと他の問題で必要な読解でも苦労するのでまず、理解はしましょう。半過去や単純未来のニュアンスを例文を通じて理解し読解は少なくとも出来るようになってきましょう。

    ちなみに英語に馴染みがある人はフランス語の文法は英語の方が遥かに理解しやすいと思います。

    私も移動時間ではyoutubeの英語コンテンツをよく聞いていました。

    日本語の文法用語で勉強するほうが私には難しく感じました(半過去、直接目的語、間接目的語などの概念を日本語にすることが困難に感じます)。前置詞なども英語に置換した方が学習は楽です。

    オマケ:歴史的背景

    ノルマン・コンクエストの歴史的な背景もあり、ゲルマン語派である英語に対しフランス語は大きな影響を及ぼしています。こういった歴史的な背景とともに勉強すると楽しいですね!

    フランス語・スペイン語・イタリア語はロマンス語というグループであり、共通点を多く発見出来ます。

    仏検で超頻出単語である”Parler”(話す)はイタリア語では”Parlare”です。イタリアで”Parlo italiano”(パルロイタリアーノ)とカタカナ発音で言えば通じます。

    他にも語学を面白いことは沢山あります。フランス語で右はDroit。そして「真っ直ぐ」もDroitです。区別のため、「真っ直ぐ行く」と言いたい際にはtout droitと表現します(toutは「全て・完全に」のニュアンス)。

    英語で右はright, 正しいもrightというのと同じ考えですね。また、Droitには権利・法律という意味もあります。英語でもrightは権利ですね。そして左はGauche。こちらは「ぎこちない」という意味です。

    単語を覚える際にはラテン語まで遡ると面白いことが沢山見つけられます。

    大問3:代名詞

    文法を勉強すれば得点を取りやすいですね。高得点を狙っていきましょう。

    大問4:前置詞

    これも文法勉強だけでかなり攻略出来る問題です。慣用句含め勉強し、高得点を狙っていきましょう。

    大問5:語順

    総合力が問われます。特に否定・代名詞・複合過去が混ざったものなど混乱するものも多いので例文を暗記するレベルに問題集をやり込むことで攻略していきましょう。仏検先生とスピード合格の問題集を繰り返し解いたことでかなり得点力は上がりました。

    大問6:応答分

    会話の流れが掴めると解けます。A→B→Aと会話が進みBの応答分を選びます。

    結構多いのが

    • A : なんかしましょう/してください
    • B:いやです
    • A:いやなの?こうなっちゃいますよ!/それなら仕方ない、こうしますよ

    という流れです。この流れを読み取れないと正しい回答が出来ないので特に最後のA発話内容を正しく読解出来るようにしましょう。

    大問7:語彙

    語彙を知っているか否かですね。これは単語帳をやっておけばよかったと感じさせる問題です。

    ただし単語帳をやらなくてもスピード合格に乗っている語彙(200語程)を知るだけで効率的に得点出来るので最低限スピード合格の語彙は知っておくことを強く推奨します。

    大問8:長文

    かなり簡単です。最初に日本語の文章を読めば、問われている内容がわかりやすくなるでしょう。

    大問9:会話文

    “Combien”や”Qu’est-ce que”などの選択肢から選び会話を完成させます。出てくる表現が限定的なのでこちらも対策をすれば比較的高得点を狙いやすいです。

    私の受験結果

    72/100でした。

    ミスしてしまったな、という問題もあれば「なんとなく」で解けてよかったな(Attention, Boulangeの書き取り等)という問題も混ざっていたので実力並だったと思います。

    予想外に語順問題を全問正解を出来たことは嬉しかったです。

    そしてかなりの時間を投入した活用問題が全滅でした(泣)。

    昨年受けた仏検4級が89/100点だったのでそれと比較すると大幅に低くなっています。

    やはり筆記での大失点は痛い。次の準2級、ひいてはフランス語を日常レベルで扱えるためには活用・筆記は回避出来ません。引き続き努力していこうと思います。

    フランス語を学ぶ効果

    多くの人に「何故フランス語を勉強しているのか」と聞かれるのですが、はじめに、で記載した通り特段目的はありません。

    ただこういったものはやってみると色々と出てくるもので今の所、以下の効果が確認出来ています。

    • カフェなどでフランス語話者と隣になった際に軽い雑談が出来る
    • 旅行に行った際の楽しみが増す
    • 意外とフランス語由来なものに気付く(プリン・ア・ラ・モードなど)
    • ケベック出身カナダ人とフランス語で会話が盛り上がる
    • 商談でフランス人がいることもあるので雑談が盛り上がる
    • ロマンス語を学ぶことに抵抗がなくなる
    • 新しい言語を勉強することは純粋に楽しいことを発見出来る
    • ファッション業界や一部ヨーロッパが強い産業にいると有用だったりする

    オマケ:私と語学

    実は私が最初に語学学習をしたのは幼稚園に遡ります。すなわち、インドに行き生活が完全英語環境になったときです。

    幼かったため、どうやって英語を覚えたのかはあまり覚えておりません。むしろ日本に帰国した際に日本語で苦労した方がよく覚えています。そして日本とインドのカルチャーギャップもとても苦労した覚えがあります。

    その後は日本に住んでいたので私の英語は10歳で一旦停止しています。再度本格的に使い始めたのは3年程前からです。直近1-2年前からは意識的に英語での仕事を増やしていきました。

    今では社内のチームメンバーや外部との会議も英語で進めることが相当に増えました。現在も欧州・北米向けの仕事が増えております。

    自分の英語レベル向上としては以下段階で伸びたと思います。

    • インド生活
    • 大学受験生時代
    • 業務(今)

    そして意外と業務内での成長幅が最も大きい。ライティングに関しても丸投げで翻訳するといつまでも成長しないので自分で書いて→AI添削してもらうというのを繰り返すようにしています。

    他には旅行に行く前には簡単に現地の歴史・言語は予習していくので色々な言語に触れています。

    短期駐在していたタイ語は文字含め少しだけ分かります。

    まとめ

    語学学習は趣味として楽しいですよ!

  • 新規事業成功に向けたルーティン

    新規事業成功に向けたルーティン

    私自身、様々な必要性から凡そ2年に一度程、新規事業の立ち上げを全力で取り組まざるを得ないタイミングがある。それがまさに今である。

    新規事業とは実に不確実であり、大変なものなので避けて通れるのであれば避けたい所であるが、そうも行かない状況に2年に一度くらいはなってしまう。

    どうせやるなら、成功させようということで100日程全力で取り組むと過去実績としてはほとんどなんとかなったというのが経験則的なサイクルである。

    さて、改めて新規事業を成功させるためには何を意識するとよいだろうか?

    私の考えでは新規事業を成功させるために重要な要素は5つである。むしろこれだけでよい。XX分析などは私自身は実務上ほとんど考えたことすらない(自然と考えが溶け込んでいるとも言えるが)。それらが救いになるのならば、どれほどありがたいことか、と思うが、実態は残念ながらそうではない。

    新規事業が成功する流れ

    早速その答えであるが、以下が凡その流れである。最も重要なのは「改善サイクル」の量とスピードである。この活動に9割以上の時間を投入するべきだ。むしろここではなく、「調査」や「社内説明」に時間を使っているなら相当高い確率で失敗する。

    • 事業機会を発見する
    • 競合・先行者を熟知する
    • 商品アイデアを考案する
    • 顧客にアイデアをぶつけ改善サイクルを働かせる
    • 突破口が見えたなら特定アイデアに集中し、他を捨てる

    順番に簡単に説明しよう。

    事業機会を発見する

    「金の匂いを感じる」と呼ばれるものである。ビジネスセンスと表現されることもある。

    事業機会と言うと分かりづらいが、要は5-10年後を想像し上昇する需要に対して供給が少ない場所を狙いましょう、と言っているだけである。

    ほとんどの会社は未来予測的には動かず、短期の日和見的な挙動を示す。中長期を想像し、投入リソースをコントロールしながら一貫して目標を追求していけば高い確率で事業は成功させられる。

    ちなみに「市場参入が早すぎた」というのは「先見性にあふれる」という意味にはならず「現実を感じるセンスに乏しい」ということなので誇るようなものではないことに注意である。

    競合・先行者を熟知する

    「これが儲かりそうだな」と思ったなら真っ先にやることは競合・先行者商品の利用である。先行者の方がはるかに自分よりも物事を知っている。その先輩方に教えていただこうということだ。しかもほとんど無料で。

    これをしない理由はなにもない。迷わずあらゆる手段を用いて競合・先行者サービスを利用するべきである。「あらゆる手段を用いて」とは、簡単には購入出来ないBtoBサービスであってもなんとかその実態を理解する努力をするべきである、という意味だ。自社での利用が難しい可能性があるなら、既に使っている会社に話を聞けばよい。そしてこれはそれほど難しいことではない。

    商品アイデアを考案する

    数多くのアイデアを考案しよう。ややこしく考える必要はない。先行者らが行っているものに自社なりのアレンジを加えればよいだけだ。

    「画期的なアイデア」は基本避けよう。顧客の習慣に合っていない。メディアは喜んでくれるかもしれないが、習慣にハマりづらいものというのはユーザーにとってありがたくない。

    習慣を変えようというのは相当長期及び大規模な投資を覚悟しない限り追求しないほうがよい。

    「市場を啓蒙する」という発想も同様である。

    市場は1社などに啓蒙されるのではなく、はじめからその需要を持っている。顧客らから内発的に浮かび上がる需要にアイデアを当てる発想が基本だ。

    「自分が啓蒙すれば需要が盛り上がる」というのは楽観的な考えである。

    基本的に事業戦略の基本はトレンドフォローである。逆張りの成功率は高くないが、アイデンティティの都合からなのか、トレンドフォローを無視し、逆張りをする人々は絶えない。

    もし望むものが事業の成功ではなく、逆張りによるアイデンティティの確率や個人のメディア上におけるプロモーションであるなら、逆張りもよいだろう。

    ちなみに、アイデアとは顧客に理解出来る単純な言葉で表現された

    • 商品案
    • 期待効果
    • 競合との比較優位

    を指している。顧客に理解出来ない高尚なコンセプトはアイデアとは言えない。

    顧客自身の購買活動は比較的シンプルである。自分自身や自社も大量のモノ・サービスを購入していると思うが、その中で製造方法・裏側にある会社の想いなど知っているものはどの程度あるだろうか?

    購買心理を紐解きたければ、自分自身を見つめるとよいだろう。

    顧客にアイデアをぶつけ改善サイクルを働かせる

    これが活動の9割以上を占めるようにしよう。ひたすらにアポを取って、提案し、断られ、改善し、を繰り返す。

    事業リーダーが保証出来るのはこの数とスピード程度だろう。

    誰かをリーダーにアサインするのであれば、アイデアの改善スピード・顧客フィードバックを受け取る回数が多い人をアサインするべきだ。

    当初の想定は間違っていても全く構わない(あたっているに越したことはないが)。このサイクル中に修正出来るはずだからである。当初想定を外していたことは事業が失敗する言い訳に出来ない。

    このサイクル中では極めて柔軟な修正を前提とするべきだ。自分自身も「自分が如何に間違っているか」については織り込んで動く必要がある。周囲も同様である。

    「当初掲げたコンセプトと今の方針は違うではないか」というのは批判する理由にならない。

    唯一否定されるべきは「アイデアの改善速度と量が足りないではないか」だけである。

    このプロセスは混沌としたプロセスである。データやロジック、というのは相当に頼りない。

    1アポだけの打球感から、迅速に戦略を修正する必要がある。

    ここで「Nはどの程度であれば十分なのか」などの疑問が湧くと思うが、新規事業と決定木的な論法は極めて相性が悪いと思って構わない。

    Pという状況でXであればA→Qという状況でYであればB→….という決定木的な考えは「分かりやすい」と思うが実態と即していないのでこの考えに救いを求めると失敗に導かれる。

    Xであれば撤退、NはP人であれば十分などの形式的な要件を求めるならば新規事業リーダーとしては不適格である。

    外部から与えられる形式的な判断基準ではなく、直感による判断を磨くには経験と知識が必要である(カーネマン曰く)。形式的な基準を求めるのではなく、成功・失敗事例を大量に知り、そして自分も成功・失敗を大量に経験することが良い判断をする近道である。まやかしの判断基準に頼らないようにしよう。

    突破口に集中する

    つらい、つらいアポを繰り返していると、ふと顧客側からすごく歓迎されるタイミングがある。

    今までは押しても押しても進まなかったが、引き込まれるようなタイミングがある。

    これを見つけたら他の活動を一切停止し、全力でこの機会に集中し捉えきる。

    ここで「いや、他も検討したい」などと言っていては幸運を永遠に掴めない。

    局所的最大解であっても全く構わない。新規事業においては解、すなわち「売れる」ということが何よりも希少である。機会を選ぶ贅沢などありはしないのだ。

    まとめ

    • 決定木を信じず、直感を磨く。直感を磨くには知識と経験
    • 新規事業の活動はシンプルにする。アポの取得と改善に9割以上の時間を使う
    • 機会が来たら集中し、捉えきる。「本来やりたいこと」のように自分の都合を押し付けようとしない。(顧客の考えを変えるより、自分の考えを変えた方が遥かに容易だ)
  • SaaSの死・その先にある3つのモデル

    SaaSの死・その先にある3つのモデル

    2026年は「SaaSの死」というキーワードが特に話題となった。

    SaaS関係銘柄の下落は顕著であり、市場は少なくとも非常に高いバリュエーションを許容しなくなっているようだ。伝統的なSaaSビジネスという考えを根本的に変えていくことを考えるには良いタイミングだろう。

    SIらもこの10年程は「サービス型ビジネス」への移行を標榜してきた。SaaS型を目指したような側面もあっただろう。

    ただその前提条件も大きく変わりつつある。

    それではSI・SaaSというソフトウェアカンパニーであった会社らはどういった方針を取ることが出来るのだろうか?本稿ではこのテーマを考えていきたい。

    SaaSに対する3つの脅威

    そもそも何故「SaaSの死」と言われる状況になっているのか考えてみよう。

    1.過渡競争

    SaaS企業にとっての危機は何も生成AIのみによるものではない。2017-2021年頃、私は元々SaaS型のビジネスをカスタマーサポート領域で行っていた。当時からの課題は競争の激しさである。Salesforceが生んだThe modelであったり、LTV/CACなどのメトリクスであったりSaaSというビジネスのプレイブックは時間が経過する毎に増えていった。

    そうするとSaaS企業間の競争は非常に激しくなる。全員が似たような考え方をし、プロダクトを作る。”MVP”,”Product market fit”などの考えも流行した。TVCM・タクシー広告出稿をする企業も増えた、

    激しい競争によりCAC(顧客獲得コスト)は急騰する。

    現場で現れる状況としては、営業が極めて有能でないと売れない、アポ獲得のための広告コストが高騰する、という状況である。

    単純なツールを売るためにも、1アポあたり7万円等を払うような状況であった。決済者アポとなるとより高額である例も珍しくない。

    当時は株価の評価でPSRも用いられることがあった。期待過剰であったことがよく感じられる。利益は出ていなくても成長さえしていれば許容された。

    雨後の筍のようにSaaS企業は生まれ、激しい営業・マーケティングを行うと顧客側にもSaaS導入疲れが現れる。同時にSaaS導入にかかるコスト・工数、それがもたらす効果も顧客は学習していった。ニッチなツールになればなるほど、導入の割に合わなくなる。

    このような時代が10年も続けば顧客側もお腹いっぱいである。「もう新しいツールは導入したくない」という顧客も増加した。

    このような過渡競争により、生成AIの以前から多くの企業にとって簡単には利益を生みづらい状況が当初からあった。

    技術的な差異はほとんどの会社が持っていないため、ひたすらマーケティングコストが上がっていったのだ。

     2. 顧客側で出来ることの増加

    顧客側の学習、ローコード・ノーコードツールの発達によってわざわざ”SaaS”と定義された特化型業務ツールを導入せずとも顧客自身が出来ることが増加していった。

    生成AIの登場により、このトレンドは更に加速している。

    社内で作ったものであれば自分らのワークフローに対するカスタマイズも容易である。SaaS企業が定めたワークフローに自分らのワークフローを変更していくという非常に大きなコストも払う必要もない。(ワークフローの変更は極めて大きいコストだ!)

    一定程度の人材を確保出来る企業にとっては外部ツールを導入し続けるよりも自分らで出来る幅を拡張していくほうが妥当な方針となっていった。

    3.Big techの進化

    会計や法務など連日OpenAIやClaudeから従来は特化型のソフトウェアカンパニーが行っていたようなツールがリリースされている。このトレンドは更に加速するだろう。

    Big techは強烈な規模を持っているため性能のみならず、価格競争力も非常に強いことが想定される。

    業界毎のローカルな習慣、規制に守られていた人事・会計・法務ツールは若干の参入障壁を持ちつつも「ここまではbig techは出来ないから安心」と言えるツールは多くないだろう。

     

    AI時代にソフトウェアカンパニーが取れる3つのビジネスモデル

    「特定の業務課題を発見し、MVPを作成し、改善し、PMFし、LTV/CACバランスを取り、The Modelで…」という古典的なSaaSプレイブックを見つめ直すべきではないだろうか。

    「管理画面、ワークフロー、簡易データベースの集合を売る」という考え方自体を考え直す必要があると感じる。

    私が取り組んでいるモデルとしては3つ存在する。

    1. 企業が自社でワークフローを組むためのツール群提供及びコンサルティング
    2. サービス自体(BPO・清掃等)を事業とする。新ワークフローを設計し、内部を極限まで効率化・高速化する。
    3. コアテクノロジーの提供(図面解析等)

    それぞれ簡単に説明しよう。

    企業が自社でワークフローを再設計

    「非ITカンパニーが自分らでワークフローを組み換えていくための支援をしよう」というのがこのモデルである。AIエージェントなどを導入していくためにもデータ基盤、エージェントツールの導入、セキュリティの対応などをしなくてはならない。

    これを全て自社でやり抜くのはかなりの経験を必要とする。

    これを支援するための黒子ビジネスをやりましょう、ということである。

    このようなツールを開発して提供することも出来るし、ツールを導入していくことも出来る。「

    導入」と言ってもワークフローに合わせてITシステムを作っていくのは基本的に顧客の役割としていく。実務的には、顧客内に常駐する人間を派遣し、その人間が顧客に合わせたツールを作っていくというビジネスも増加するだろう。

    顧客側がツールに詳しくなるまではこの派遣業でも相応のマージンを期待出来る。(そしてこの期間は結構長い)

    サービス自体の提供

    「AIで業務効率化出来ますよ。このツールどうですか?」と売り込むより、もし自信があるならその業務自体やってしまえばよい、という発想である。

    ツール導入というのはそもそも非常に面倒である。顧客はそんな面倒なことはなるべく避けたい。

    ベンダー側としても新たな技術の説明をし、説得し、学習してもらい・・・というのは避けたい所だろう。

    顧客自身が元々アウトソースしている業務(清掃等)を狙い、新たなベンダーとして参入するのである。その新たなベンダーは顧客に対しては「低コスト・高速納品」などの価値を訴求し、内部でAIを思う存分使えば良い。

    ポイントとしては顧客の業務習慣を変えないことだ。日常的にアウトソースしている業務の新たなベンダーとして売り込む。顧客側は大きく習慣を変えることなく、その価値を享受出来る。

    勿論これを行うためにはサービス自体に対する深い知見を要求される。これはパートナーシップやM&Aを通じ獲得していくと効率的だろう。

    コアテクノロジーの提供

    「顧客が出来ることが増えた」「Big techが出来ることが出来た」といっても勿論全部ではない。業務で使える水準までテクノロジーを磨く必要がある物も多い。

    最近では特に図面解析、音声解析は非常に面白いと感じることが多い。このような急所となる技術を研究開発し、提供するというものである。

    勿論Open AIのAPIなどをただラップした程度のものには何ら競争力はない。そのような技術のことを言及しているのではない。

    計算資源確保による差別化

    Nvidiaのパートナーシップを見ているとハードウェア系のみならずソフトウェア(ServiceNow)とも組んでいる。

    株価だけ見ると「SaaSの死」であるが、売上・利益ともに好調である。

    AIエージェント提供企業(1)やコアテクノロジー提供企業(3)も今後増加し、競争は激化する。

    その際に、そもそもAIを動かす計算資源を適正なコストで確保出来なければ持続的な優位性を持てない。

    そうなると計算資源を提供出来る企業らとソフトウェア企業らとのパートナーシップは今後増加する。

    ソフトウェア企業としては膨大な計算を適正コストで実現する構造を作らなければ競争からふるい落とされる。

    まとめ

    「管理画面・データベース・ワークフローを業務に合わせて組んで多額のマーケティングコストを投入し売る」という特にVertical SaaSに見られがちな古典的な考え方を見つめ直すタイミングではないだろうか。

    2026年前半は特に半導体・DC関係の企業が活況となったが最終的にAIは学習されたものをビジネスで継続的に利用するフェーズへと移行していく。そのような状況で栄えるビジネスの開発に今から取り組んでいくべきだろう。

     

    メルマガ版

    メルマガ版では本稿に対し、更に私の本音を追記した。本ブログ公開後、5/18に配信をする予定なのでそれも読んでみたいな、という方は是非メルマガに登録して欲しい!

  • 戦略とはネットワークである

    戦略とはネットワークである

    機械学習のアルゴリズムを作っていると、

    「戦略とはニューラルネットワークが作られていく過程と実に似ているな」

    とよく思う

    基盤となるモデルがあり、データを放り込み、学習がなされ、最終的には上手く行くパラメタ群になっていく。

    結果的に成功しているアルゴリズムのパラメタを取り出して個別の数値を見てもよくわからないのだが、全体としては上手く機能している。

    戦略が作られ、実地での学習を経て最終的に当初は予期はしていなかったが成功する。解剖して個別の要素を見てもよくわからない、というのは戦略論を彷彿させる。

    また、楠木建先生の「ストーリーとしての競争戦略」を読み直しながらインスパイアされたという点からも着想を得ている。

    本日は「戦略とはネットワークである」というアイデアとその実務的な創出過程について説明したい。

    戦略ネットワークって何?

    個別のアセット・要素がネットワークを形成し、最終的に「戦略目標」を達成するという様を図示すると上のようになる。

    その中では「他社はリスクが高い・成功しないと思っているからやらないが、自分は成功すると知っている・思っている」というピーター・ティールが言う「大切な真実」が含まれている。

    「ストーリーとしての競争戦略」中で引用されていた【「バカな」と「なるほど」】という書籍の言葉で表現するなら、他社が「バカな」、と言う内容が「大切な真実」というものだ。同質化を防ぐため戦略は少々の逆張りが必要だ。

    逆張りが多すぎると、リスク過剰で全体が機能しない。1つ2つの逆張りを配合し秘伝のレシピを作る、というのが実務的に機能するものとなる。

    よくよく思えば料理にも似ている。基礎を無視すればただのまずいカレーにかならないが、全く教科書的なレシピでカレーを作っても面白みがない、わざわざ店に来る理由にならない。少々の逆張りがよいのだ。

    上のように見ると意味がわからないが、単純な具体例を挙げるとすれば以下のようになる。

    戦略目標としては「Xという商材を売ること」。

    リード獲得は展示会、リスティング広告、検索流入で主に実現する。営業は15分ヒアリングを実施した後、有望であればクローザーが直接説明をする。

    ここで「大切な真実」がある。他社はまだ「Yという技術は実用的水準にあると思っていないが、実は特定用途では既に機能する」ということに気づいていない。

    そうであればYという技術を活用しセグメント特化戦をやれば非常に勝ちやすい、ということだ。

    この中ではリード獲得部隊、営業部隊、商品開発部隊等の要素が登場する。

    リード獲得部隊と営業部隊の関係性は固有なものであり、類似のものは他社でもあれど、全く同じものは世の中にはない。これの集合たるネットワークはより固有になる。

    このように個別の要素(ノード)が他のノードと固有な関係性(リンク)を形成した固有な塊のことをネットワークと呼ぶ。

    会社の「強み」って何?

    これは私の書籍である「インサイト中心の成長戦略」にも書いたのだが、会社の強み、すなわち独自性とはネットワークである。

    個別の要素に注目すると一見分かりやすく見える。

    「この技術が強い」「特許を持っている」「営業が強い」

    ただ個別の要素はコピー出来る。個別の要素だけでは持続的な優位性を形成しない。

    特許についてはよく聞かれるのだが、多くの要素と組み合わせることで間違いなく強い防壁の1つとして機能する。

    一方で「この特許を活かした新製品を作ろうという検討をしています」というプロジェクトはほぼ失敗する。これは個別の要素が持っている価値を過大評価し、実質的な競争力となるネットワーク全体を見ることが出来ていないからだ。

    困ったことに、このネットワークが持つ競争力というのは言語で端的に表現不能である。この説明不能性もニューラルネットアルゴリズムを彷彿させる。

    IRや企業分析では端的に「この会社の強み」を述べることが求められるのだが、過度な単純化をしてしまうことが常である。実際その会社が儲かっている理由は独自のネットワークを形成していることにある。

    自らが経営者であるならばこの複雑かつな巨大なネットワークを体感出来ていないと自社が出来ること/出来ないことの境界線を捉えることはできないだろう。

    戦略ネットワークはどう構築される?

    さて、ここからが問題だ。成功しているネットワークを見て、結果論的に「このネットワークは機能している。特に重要なのはこのノードとこのノードであり…」と解説をすることは出来る。

    問題はその複雑なネットワークをどう構築していくかということである。

    これはなにせ難しい。そもそも自社が活用出来る要素は何があるのか、それぞれの要素はどの程度機能するのか、個別の要素を結節させた際にはどのようなリンクが形成されるのか、それらを組み合わせ限定された資金と時間内で戦略目標達成に寄与させることが出来るのか。

    上を考えただけでも巨大な不確実性を持ち、計算で「確率」たるものすら算出出来ないということはよく分かるだろう。

    超単純化したモデルにトライしてみよう。

    事業に活用出来る主な要素と事前に特定しN個であると決めることが出来たとしよう。

    その能力を単純にc1,c2,c3…cNと定義出来たとしよう。

    それではN個の要素がそれぞれにリンクを大なり小なり結ぶとしよう。3つが関わる場合、2つが関わる場合様々あると考えるとNC2+NC3+…という小規模ネットワークがあり、それぞれが機能する確率をp1,p2….

    ああ、もう無理だ。モデル化なんて考えられるはずもない。このように(?)、企業の実態たるネットワークというのは事前に計算不能というのが厄介な問題なのだ。

    「新規事業が成功する確率」的な概念は結果からは計算出来る。すなわち試行回数を定め、成功数たるものを定めれば機械的には一応計算出来る。ただほとんど意味のない数値だ。

    学生が解くケース問題のように「この確率を上げるためには試行回数を減らすか、成功数を上げればよいことが分かります」という愚かな結論しか導かない。(試行回数を減らせば学習が不足し、成功数も減る、という効果も現れるので実に無意味な数字だ)。

    いやいや、それでは当てずっぽうしかないのか?「戦略策定」たるものに意味はないのか?となるとそうでもない。

    事業創出実務としてのネットワーク形成

    最初から要素数が多いと失敗する。

    要素の発見と能力の把握には金も時間もかかる。それぞれを結節出来るか検証し、トライすることにも金と時間がかかる。

    つまり極めて重要なノードを限定し、そのノード間の結節に注力をしなければならない。

    結節にトライすることにはコストがかかるため、難しいと思ったなら即座に方針を切り替えることが出来なければネットワークを形成することは出来ない。

    1つ1つの結節に「検討し、数を重ね検証し、議論を重ね…」という方針をとっていたのではネットワーク形成へのトライは最初から破綻している。

    計算不能な巨大ネットワーク形成というタスクに挑むにあたって議論・論理的思考・計算はあまりにも使い物にならない。現実に起きていることをありのままに直観し即断即決を連続しなくてはならない。

    即断即決をするためには判断基準が明瞭である必要がある。これは「戦略目標に寄与するか否か」だけにする必要がある。

    「これをしたらあの人が気分を害するかもしれない」「自分が野蛮な人間と思われるかもしれない」というノイズが介入すると失敗に導かれていく。

    無意識的に多正面作戦を展開しているからだ。特に「いい人だと思われたい作戦」と「事業を成功させたい作戦」の相性は最悪だ。せいぜいどちらかに絞るべきだ。

    上で書いた概念を図示すると以下のようになる。

    特に事業初期はノード数を絞る、結節を試みるリンクも絞る。複数のノードを結節させ、戦略目標達成が微弱でもよいので前に進んでいる状況を作る。

    長期一貫性が基本的な競争力

    このネットワークは複雑で巨大であるほど模倣可能性は低くなるので競争力は増していく。

    個々人の社員は「巨大ネットワーク構築」という超不確実な問題に挑むのではなく、主には既に形成されたリンクの保持強化に取り組めばよいので不確実性が下がる。

    リーダーも限定された小規模ネットワーク構築に挑めばよい。

    これを長期継続していれば強いネットワークになっていく。一方で「戦略目標」「極めて重要なノード(大切な真実)」がずれるとネットワークの組み直しをしなくてはならなくなり、大規模ネットワークの形成には失敗する。

    「戦略目標」「極めて重要なノード(大切な真実)」を変えず巨大なネットワークを作り続けるというのが企業が競争力を強化していく基本的な方針となる。

    撤退のとき・

    よく「新規事業の撤退はどう判断しているのか」と聞かれる。私にとっては結構シンプルである。

    1.戦略目標に価値がないことが判明した(とある価値を提供しようとしたが、客はそれには金を払わないことが分かった)

    2.「大切な真実」が真実でないことが分かった

    3.ネットワークを組み上げるコストが創造を遥かに上回り、他にもっと効率がよいものが見つかった

    過去経験ではほとんどが3番目の「他にもっと効率がよいものが見つかった」である。1と2でコケるならばあまりにセンスがない。特に1でコケるのはあまりに酷い失敗だ。ほとんどは顧客との対話を行っておらず社内議論だけに逃げていることに起因する。無償POCを続け、厳しい問いに向き合うのを先延ばしにしている。

    要はコケるのが怖くて先延ばしにしたことによる失敗である。

    企業が崩れるとき

    ちなみに新規事業のみならず「企業が崩れるとき」は「ネットワークの寿命が尽きたとき」である。

    ユートピア論には「ネットワーク(要はビジネスモデルや中核技術)が変わっても顧客価値に忠実であればよい」という主張もあるが、これは無理だろう。

    顧客価値、例えば「食品を冷やしたい」「移動を楽にしたい」に忠実であれば企業が繁栄出来るならば何故我々は元馬車業者の自動車会社や元氷屋の冷蔵庫メーカーを見ていないのだろう。

    大きな変革を乗り切るドラマチックな企業ストーリーは稀には見られるが稀である。世界的に有名な事例は稀だからこそ有名なのだ。

    企業の本体は戦略目標ではなく、ネットワーク側である。戦略目標に忠実にネットワークを組み直せばよいではないか、というのは幻想であろう。

    戦略屋は不確実性にどう向き合う

    上でくどくど話したように、戦略は巨大・複雑なネットワーク形成に挑むということである。

    戦略屋が難しい問題に「難しいですね」と言っても意味がない。

    戦略屋に求められるのは主に以下だと思っている

    • 意味のある戦略目標を明示し、一貫性を貫く
    • 自社アセット(ノード)を活用し形成出来る独自ネットワークの絵姿を示す
    • その中でも急所である「大切な真実ノード」を見出す。
    • 初期段階は不確実性を減らしながら小規模ネットワークの形成を進める
    • 長期一貫性を貫き巨大ネットワークを形成していく

    このセットが出来ない戦略屋はほとんど意味を持てないだろう。

    今私は「初期段階は不確実性を減らしながら小規模ネットワークの形成を進める」をやっていることが多くなってきた。直観を研ぎ澄まし、この問題に挑んでいきたい。

  • 研修・トレーニングにできること

    思えば研修を既に40社以上に提供してきた。その中で多くの気付きを得ながら、サービスの改善をしてきた。本稿では私(中村陽二)がどのような研修を提供することが出来るか、何故取り組んでいるのかを説明していきたい。

    研修で取り扱うテーマ

    当初は研修を提供しようという考えはなかったのだが、幸いにして多くの相談を頂くようになり取り組みは拡大していった。

    当初は新規事業創出やコンサルタントのスキルトレーニングなど短期の取り組みが多かったが、徐々に数ヶ月に渡るプログラムの設計・提供についても相談が増え始めていった。

    現在は基本的には事業創出・成長を担えるリーダーの育成に取り組んでいる。

    新規事業創出のプログラム例:事前学習・事後フォローアップ・2日間ワークショップ

    単発の講演を除いては企業の状況に合わせてプログラムを設計し、提供している。

    例えば数多く取り組んだものでは2日間のワークショップを中心とした研修がある。

    これは次世代のリーダー層とされる40歳前後の社員らに提供したものである。

    まず事前学習として、テキスト提供及びレクチャー動画の提供を行った。

    事前学習材料はその企業の歴史、向かいたい方向性、今までの事業成功・失敗経緯を踏まえカスタムメイドされたものである。テキストだとかなり長文になってしまったため、ポイントを短時間で説明した動画も合わせて提供した。

    事前学習はテキストを読むのみならず、各々に事業プランを練ってきてもらった。それを2日間のワークショップで一気に磨き上げていくというものである。

    2日のワークショップは凡そ以下のようなプログラムで提供した。

    Day1

    1. 事業コンセプトの再設計
    2. 高速調査
    3. 論点の抽出
    4. 高速調査
    5. ショートインタビューの実施(研修メンバー間でのインタビュー)
    6. 事業コンセプトの確定

    Day2

    1. インサイトの再整理
    2. 高速調査
    3. 収益性計算
    4. 市場規模算出
    5. 事業案のプレゼン化

    これは私が「サーキット型のトレーニング」という形式で提供している。

    つまり以下を1セットとして、これを繰り返して進めていく方法である。

    1. ワークの説明(10分)
    2. ワークの実施(30-40分)
    3. 発表(1-2分の発表を複数人)
    4. 講評(10分)

    実際にやってみると相当のスピードを求められるのでとにかく忙しい感覚になると思う。しかし、時間を限定していかないとすぐに調査というのは情報の海に溺れてしまう。

    論点を特定し、必要な情報を特定し方針を意思決定し続けるというサイクルには慣れる必要がある。

    事業戦略の立案というのは分からないことだらけである。ただリーダーならば少なくとも「何が分かれば、現在分からないことが分かるのか」という問いには答えることが出来なければならない。

    不確実性の中でのリーダーシップも一部磨くことが出来るだろう。データも十分にあり、合意形成がしやすいならばそもそもリーダーなんというものは必要がない。

    常にデータも時間も資源も不足している中でもどうするかを決断しなければならないからリーダーというものが必要なのだ。

    また1分で端的に結果を発表するというものよい経験だ。時間が限定されていれば必要な情報を端的に述べなければならない。通常の業務でこの能力を磨く場面は限られていることも多い。

    ただ相手が重要人物であればあるほど、話しを聞いてもらえる時間というのは貴重だ。そういう人物はなおさらにダラダラと話されることを嫌う。ストレートにポイントを述べることには慣れる必要がある。

    研修で重要だと考えていること

    忙しい日常業務から半強制的に遮断され、研修に数日間割り当ててもらうわけなので十分な意義を感じてもらわなければならない。

    私自身も「勉強になりました・知識のインプットになりました」程度のものは提供したいと思わない。

    もっとその数日間でタフな体験をし、参加前後では考え方自体に大きな影響を及ぼすものでなくてはならない。「事業創出のフレームワーク」的なものの他社事例を聞いただけでは、そのようなインパクトは出せない。これはまさしく、本で読めばよいのである(むしろそうあるべきですらある)。

    参加者自身がビジネスプランを能動的に考案し、不十分な情報から意思決定を行い続け、チームを率いるような体験をしなくてはならない。そしてそのプランを自信を持って発表し、経営陣を含む他人を動かすような体験をする必要がある。

    そして何よりこの過程を楽しい・未知のチャレンジとして楽しんでもらいたい。

    研修で提供する内容は毎月のようにアップデートを続けているので相談頂く時期により提供内容は進化していると思う。何かを文章化したり、発表したりすれば、新たな疑問が湧き上がり必然的にアップデートを続けていくことになる。

    〇〇プログラムという内容を固定化したものには現状しておらず、カスタムメイドの過程でプログラムを進化させている状況だ。

    共に素晴らしいトレーニングを作り上げていきたいと思う。

    講演で重要だと考えていること

    さて、講演について少し説明しよう。講演については以前より

    「何故わざわざコストをかけて直接講演が必要なのだろう?これは同じような内容を文章で伝えるのとは違うのか?」

    「特にコロナ禍ではウェビナーというものが多かった。これではリアルの迫力もない。何故わざわざタイミングを同期させて動画視聴に近い体験をする必然性があるのか?」

    という疑問を持っていた。

    私の中ではこれは決着しておりライブで音楽を聞くのと、音源(ストリーミング等)から聞くのとの違いと解釈している。例え同じ曲だったとしてもこれは別の体験だ。

    演者(ここでは私)、観客(参加者)、場・状況が作り出すユニークな何かがリアルにはある。これが講演の価値だと認識している。

    そうすると私としては話す内容がその場・状況・参加者に合っていることは勿論のこと、グルーヴ・バイブ・空気感も含めた演出・話し方に力を入れなければならないということだ。

    研修って意味ある?

    基本的には能力は実務を通じて作り上げたものがほとんどだろう。

    これはスポーツでも同様だ。研修というのは例えばテニスを始めるならば定期的に「一段上に上がるための集中トレーニング」に参加するようなものだ。

    一段上に行くには自分だけでがむしゃらになりながら努力するよりもコーチに定期的には見てもらって上に押し上げてもらった方が効果的である、ということには異論はないだろう。

    研修・トレーニングの存在は自分でがむしゃらに努力することを一切否定するものではなく、むしろ補完として機能する位置づけである。

    多くの能力は実務を通じて培われる。その補完、次に行くきっかけを与えるのが研修というものではないだろうか。

    問い合わせ

    研修、講演に関するお問い合わせは以下メールアドレスよりご連絡下さい。コラボレーションも歓迎です。

    nakamura@yojinakamura.com